「雄獅少年-少年とそらに舞う獅子」感想 激烈な力で描かれる、社会に対するちっぽけな反乱

中国のアニメ映画、「雄獅少年-少年とそらに舞う獅子」を見てきましたので感想を書きます。ネタバレあり。

 

すげェ…。

 

中国では競技としても楽しまれる獅子舞をテーマに描かれた美しいアニメ映画。

 

あらすじは、かつての獅子舞大会チャンピオンである美しい少女と出会った弱っちい少年が、長年憧れるも諦めてきた獅子舞に取り組み、他のくずみたいな仲間と共に必死に努力するというもの。

構造としてはグーニーズ、ITなどと同じ、のけものとされた者たちが一つの目的の中で共に助け合い、立派に成長する物語に見える。

が、この映画はそこに強烈な残酷性を隠している。

 

主人公たちは必死の努力の末、大会の出場権を手にする!手にするのだが…、そこに現れる貧困という現実。

この映画に邪悪な人間はいない。村のいじめっ子は最後にはなによりも主人公を讃え、自分の身を顧みることなく助ける。2回戦までは手を組んで蹴落としにかかった他のチームの人間も、主人公のラストチャンスを太鼓で応援する。決勝の相手である都会の嫌味なチームも別に悪いことをしているわけではない。

 

ただ、社会が悪い。

 

貧困によって大会を目前に獅子舞を諦めた主人公。

女性だからと競技を辞めさせられたヒロイン。

 

社会という現実にはどうやっても勝てないのか、貧乏人は栄光を掴むことができないのか。

 

この映画の出した結論は「どんなに頑張っても、全てを手にすることなんてできない」という、極めて冷徹で、残酷に見えるものだ。

 

主人公は大会で誰も成し遂げなかった偉業を成し遂げた。

じゃあそれで何が変わった?

生活は?ラストシーンで描写されるそれは大金持ちのものではない。多少は良くなったが、未だ貧乏な出稼ぎ少年だ。

一生を添い遂げる想い人は?密かに恋心を抱いていたヒロインの隣には男性の姿。

意識を失った父が奇跡的に復活した?ここは解釈が分かれるだろう。獅子舞が天へと昇る姿を見て指をピクリと動かすシーンはあるが、ラストシーンで貼られている写真は少年時代のものである。ここに成長した家族の写真を置かなかったこと、未だ主人公が出稼ぎを続けていることの点から、少なくとも主人公は父がどうなったかは知らなそうだ。

 

では、主人公が血の滲むような努力で取り組んだことに意味はなかったのか。それは違う。

全てを手にすることはできない。映画の英雄のようにミッションは成功、美女ともキスしてラストで楽しくパーティ、ではない。

でも、確かに一つ手に入れた。残酷な社会という敵から一つだけ奪った。

それが、仲間と共に助け合い、栄光を手にしたという記憶。

それがあるから、凡人に戻った主人公は前に進めるのだ。

 

かつて主人公が憧れたヒロインのように、今回のことは誰かに夢を与えたかもしれない。そして、その誰かもまた、努力の末、社会に一矢報いるかもしれない。そうした連鎖が社会を変え、誰もが英雄になれる世界となるのを願うばかりだ。

 

アニメ映画なのだから映像についても触れておかねばいけない。

写実性とデフォルメが混ざったキャラクターデザインは、ともすれば気持ち悪く見えるかもしれない。まるで似顔絵作家の絵みたいだ、と思うかもしれないが、これが慣れるとなかなか可愛らしい。決して美少年ともナイスガイとも言えない主人公たちだが、コロコロ変わる表情はとても愛らしい。

映像面でなによりも触れておきたいのは背景の美しさだろう。

自然、特に木々と光の描写は息を呑むように美しく、夜の光がうっすら照らす森や、真っ赤な花を咲かせた木綿と、そこからもれる木漏れ日は、現実的ながら現実にはないような神秘性を漂わせている。

獅子舞もまた美しく細やかにデザインされている。ふさっとした毛は触りたくなるほどだ。

 

音の面についても少しだけ。

挿入歌や音楽はどれもチャイニーズなイメージを感じさせる雰囲気のあるものだった。

そして、声。

私は中国語が世界で一番美しい発音の言語だと思っているので少し誇張が入るが、まるで歌のようなリズミカルなセリフは作品にテンポを作り出し、飽きさせることはなかった。そして美しいヒロインの声。まさに鈴の鳴るようなシャンとした美声。とても心地いいものだった。

 

とにかく面白かった!